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映画『コンクリートユートピア』オム・テファ監督、「悪に突き進む平凡な人たちの姿が理解されるように」

2023年08月08日

「この映画に出てくる人たちが、悪という姿だけで終わらないでほしいと思った。平凡な人たちが利己心を露わにし、悪へと突き進んでいくが、それが理解され共感を得ることを願う」
最近、ソウル・鍾路(チョンノ)区のあるカフェで会ったオム・テファ監督は、映画『コンクリートユートピア(原題:콘크리트 유토피아)』の演出方向性について尋ねられると、このように答えた。
9日に韓国で公開されるこの映画は、大地震で廃墟となったソウルに唯一残った“ファングンマンション”の住民たちの生存記を描く。普通の人々が災難によって変わっていく過程を通じて、人間が守らなければならない最小限の倫理と善は何なのかを問う。
オム監督は「もし自分があの状況にぶち当たったなら、どんな選択をするのかということを考えながら観覧してほしい」とし、「主題性は強いが、130分間没頭しながら楽しく見られる映画だ」と紹介した。
映画は、キム・スニョン作家のウェブトゥーン「愉快ないじめ」の2部「愉快な隣人」を土台にしている。
オム・監督は、災難ジャンルやディストピアの世界観を持つ作品は多いが、その背景がマンションである点に引かれたという。 「韓国人の半分ほどがマンションに住んでいるので、共感できる要素は多いと思った。韓国社会においてマンションは、住居空間であると同時に資産でもある。人々は価格の変動によって、一喜一憂する。それがとても悲しいと感じた。家は、ゆっくり休める空間でなければならないのに、愛憎や哀歓になってしまった」
そのためかオム監督は、ファングンマンションの住民たちを周りでよく見かける人物で構成した。詐欺被害に遭った頼りない家長“ヨンタク”(イ・ビョンホン)、あらゆる手段を使って金を集めやっとチョンセ(保証金制度)で新居を用意した新婚夫婦の“ミンソン”(パク・ソジュン)と“ミョンファ”(パク・ボヨン)が主人公だ。
特に、ヨンタクが突然、新住民の代表になり、徐々に独裁者へと変わっていく姿に焦点を合わせた。原作では最初から最後まで悪役として登場するキャラクターだ。
オム監督は「イ・ビョンホンさんのほうから、キャラクターが変わっていく姿を見せたらどうかという提案を出してくださった。私も賛成だったため、変えることになった」と説明した。 「当時のシナリオは、ほとんど完成された状態だったため、新しいシーンを入れたり話を加えたりするのが難しいというのが問題だった。ヨンタクと関連するワンシーンだけを追加することになったが、心配だった。果たしてたったワンシーンで説明できるのだろうかと思ったからだ。ところがイ・ビョンホンさんはその短いシーンで、セリフなしに、顔面の震えとまなざしだけで説明してくれた。『これが映画的瞬間ということなんだな』と思った」
イ・ビョンホンは撮影だけでなく、『コンクリートユートピア』の制作にも大きく貢献した。イ・ビョンホンがキャスティングを快諾すると、パク・ソジュンやパク・ボヨン、キム・ソニョンなどが相次いで出演を決めた。220億ウォン(約24億円)という莫大な制作費が必要だったが、スター俳優たちの出演確定により投資にも弾みがついたとオム監督は振り返った。
「イ・ビョンホンさんは、わが国のトップ俳優。ヨンタク役を提案するのは当然で、演技自体にも疑いはなかった。出演すると言ってくださった時、私もこの映画をうまく作れると思った。とてもありがたかったのは、(経験が比較的少ない)私を尊重しようとする努力が見えたこと。『こっちの方がいい』と断言するのではなく、『こういうのはどう?』と相談する形だった」
パク・チャヌク監督などがメガホンを取った『美しい夜、残酷な朝』(2004)の演出部にいた時代、イ・ビョンホンはその映画の主演だった。そのことを考えると、時代は変わったとオム監督は述べた。
俳優オム・テグの兄でもある彼は『親切なクムジャさん』(2005)や『波乱万丈 Night Fishing(原題:파란만장)』(2011)など、パク監督の作品で助演出として働き、初期のキャリアを積んだ。その後『イントゥギ(原題:잉투기)』(2013)などの独立映画で演出作を披露した。
今回初めて大作に挑戦することになった彼は、『密輸(原題:밀수)』のリュ・スンワン監督、『非公式作戦(原題:비공식작전)』のキム・ソンフン監督、『ザ・ムーン(原題:더 문)』のキム・ヨンファ監督など、そうそうたる先輩たちと夏の劇場街で勝負することになる。
師匠も同然のパク・チャヌク監督が『コンクリートユートピア』の観客との対話に参加するなど、援護射撃に乗り出した。
「パク監督がいらっしゃらなかったら、私の夢には限界があったはず。パク監督には限界がない。おかげで私の道も開かれたと思う。よい師匠の後を付いて行かなければならないという思いだけだ」

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