映画『ソウルの春』、12・12軍事反乱の“9時間”の緊迫感をそのまま描く
2023年11月14日
1979年10月26日パク・チョンヒ(朴正煕)大統領暗殺で維新体制が幕を下ろし、これまで押さえつけられていた民主化要求が殺到した。
同年12月6日、チェ·ギュハ(崔圭夏)大統領権限代行が大統領に選出されたが、権力の重心が依然として軍部にあり、政局の行方を見極めるのは難しい状況だった。
それから一週間も経たないうちに発生した12・12軍事反乱(粛軍クーデター)は、当時の保安司令官チョン・ドゥファンを中心にした軍内政治私組織「ハナ会」が武力を動員し、不法の軍の指揮権を掌握した事件だった。
この事件で新軍部政権の道が開かれ、民主化に対する国民の熱望は再び挫折した。
軍事反乱勢力はチョン・スンファ戒厳司令官をはじめとした軍指導部を逮捕し、ソウル市内に兵力を投入し、陸軍本部、国防部、マスコミ、主要道路などを占領した。この過程で武力衝突も発生した。
当時19歳で高校3年生だったキム・ソンス監督は、ハンナム(漢南)洞の家で夜空に響く銃声を聞き、一生忘れられない記憶として残った。
それから44年が経ち、キム監督が12・12軍事反乱の緊迫した9時間を描いた映画を輩出した。彼の新作『ソウルの春(原題:서울의 봄)』だ。
この映画は12・12当時、チョン・ドゥファン保安司令官をモデルにしたチョン・ドゥグァン(ファン・ジョンミン)と、鎮圧軍を指揮したチャン・テワン首都警備司令官をモデルにしたイ・テシン(チョン・ウソン)を、二つの軸で描いている。
基本的な設定では12・12軍事反乱という実話を基にしたが、核心人物の名前を変えたことからも分かるように、具体的なキャラクターと話は果敢に創作した。観客が面白さを感じられるよう、映画的想像力を発揮したのだ。
実際に12・12当時、鎮圧軍はまともな抵抗ができなかったが、この映画でイ・テシンはチョン・ドゥグァンを窮地に追い込むほどに効果的な作戦を展開し、緊張のレベルを一気に引き上げる。武力衝突の規模もそれだけ大きい。
映画は、パク大統領の暗殺事件で話が始まる。保安司令官チョン・ドゥグァンは暗殺事件捜査を指揮する合同捜査本部長に任命され、強力な権限を握ることになる。
チョン・ドゥグァンの権力欲から危険を感知した戒厳司令官チョン・サンホ(イ・ソンミン)は、透徹した軍人精神を持ったイ・テシンに首都警備司令部を任せ、チョン・ドゥグァンをけん制しようとする。
年末の人事で左遷される危機に追い込まれたチョン・ドゥグァンは、チョン・サンホを引きずり下ろすことを決心する。彼は軍内の私組織である「ハナ会」の核心メンバーたちを自分の家に呼び込み、チョン・サンホをパク大統領の暗殺事件に結び付けて逮捕し、武力を動員して軍を掌握する陰謀を企てる。
チョン・ドゥグァンは「ハナ会」のメンバーである9師団長ノ・テゴン(パク・ヘジュン)の助けを借りて前方部隊までソウルに引き入れ、首都警備司令官イ・テシンが強力な抵抗に乗り出しながら、ソウル市内で大規模武力衝突が起きる一触即発の危機に突き進む。
この映画の面白さはチョン・ドゥグァンとイ・テシンという2つのキャラクターを見ることから生まれる。
チョン・ドゥグァン役のファン・ジョンミンは自我陶酔に陥り、果てしなく欲望を追及する危険な人物をスクリーンに完ぺきに描き出す。トイレという私的な空間で、チョン・ドゥグァンが自分の内面をそのままあらわにする場面は、観客の記憶に残るに値する。
チョン・ウソンの演技も際立つ。カメラが何度もクローズアップで照らすチョン・ウソンの顔は、どん欲が支配する現実で奮闘して倒れる原理原則の象徴として刻印されそうだ。
『アシュラ』(2016)で、悪党たちの泥仕合で韓国社会の現実を見せたキム監督は、この映画では善と悪の克明な対決で韓国社会にスポットを当てているようだ。
12・12軍事反乱の歴史的事実や軍の複雑な指揮体系をよく知らない観客も十分に楽しむことができる。
シーン一つひとつがリアルで観客は軍事反乱の現場にいるような感じに陥る。製作陣は当時の軍の服装や装備などを考証するのに力を入れたという。
この映画は、明示的に5・18民主化運動を挙論しないが、観客は12・12軍事反乱の6か月後に起こった光州(クァンジュ)の悲劇を自然に思い出すことになる。
それと共に映画の中の人間群像を見てみると、権限と責任を持った人が歴史の決定的な局面で卑怯だったり、安易な選択をしたりしたとき、どれだけ多くの人が苦痛に見舞われるのか、改めて考えるようになる。
軍事反乱清涼に対抗した人々は力がなく、敗北したが、彼らの抵抗は意味があるというのがキム監督の説明だ。
彼は9日、『ソウルの春』の試写会で、「彼ら(鎮圧軍)が対抗したため、彼ら(反乱軍)の内乱罪と反乱罪が立証された」とし、「誰も対抗していなかったら歴史で彼ら(反乱軍)が勝利者として永遠に記録されたかもしれない」と述べた。
12・12軍事反乱を描いたテレビドラマはあるが、この事件を映画化したのは『ソウルの春』が初めてだ。
パク大統領の暗殺事件を素材にした『KCIA 南山の部長たち』(2020)のHive Media Corp.がこの映画の製作を担った。キム監督は2019年に製作会社からシナリオを受け取り、苦悩の末に演出を務めることにしたという。
映画『ソウルの春』は22日に韓国で公開され、上映時間は141分、年齢制限は12歳以上観覧可だ。